大判例

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東京高等裁判所 平成2年(う)623号 判決

第1 所論は,要するに,本件ビデオテープは,本件事実の有罪,無罪を決する直接的証拠であり,被告人がそれらのテープを公判廷で再生して取り調べるよう求めたことには合理的理由があったのに,原審裁判所がそのうちの一部しか公判廷で再生せず手続を進めたのは,被告人の裁判を受ける権利を奪うもので,適正手続の観点からも許されない,というのである。

そこで検討すると,原審公判調書の記載によれば,原審裁判所は,検察官から証拠物として申請された本件わいせつビデオテープ合計419巻のうち,9巻については公判廷で再生して取り調べたが(別の立証趣旨で再生されたものを含めれば10巻),その余については,公判期日において取調済である旨記載されてはいるけれども,いかなる方法で取り調べたのか明らかではなく,少なくとも再生の方法による取調べをせず,領置しないで検察官に返還し,その点についてその後の公判期日に,弁護人から,本件では裁判官が全てのビデオテープを直接見分することが必要で,その一部についてサンプリング的な取調べをすることは適当でない旨の異議申し立てがされたのを棄却したことが明らかである。ところで,証拠物の取調べ方法について,刑訴法は,公判廷で展示すべきことを定め,他には格別の規定を置いていない。しかし,展示は,例えば殺人に使用された凶器のように,そのものの存在自体が証拠としての重要性を持つ典型的な証拠物の取調方法としては適当であるが,例えばビデオテープや出版物等のように,証拠物の存在自体だけでなくその内容が証拠としての重要性を持つ場合の取調方法としては不十分であると言わなければならない。従って,証拠物の取調方法に関する前記の規定は,証拠書類に関する取調方法である朗読ないし要旨の告知と対置させる意味で,証拠物に関する展示を典型的・原則的な取調方法として規定したものではあるけれども,証拠物のすべてについて一律な取調方法によることまで規定したものではなく,取調べの目的,すなわち,これによって裁判官に心証を形成させかつ訴訟関係人に証拠の内容を確知させようとの目的に照らして前記規定によることが不適当又は不十分と見られるときは,当該証拠物の性質に応じて,これにもっとも適合した取調方法によることを当初から予定しているものと考えるのが相当である。そのように考えると,取り調べようとする証拠物がビデオテープである場合には,原則として,公判廷における展示及び再生の方法によるのが相当な場合が多く,なかでも犯行の現場を撮影した,いわゆる現場ビデオ等については,とくにそうであると考えるられる。しかし,ビデオテープの中でも,本件で問題とされているようなわいせつビデオテープについては,現場ビデオの場合とは異なり,録画内容の筋書きや登場人物の個別行動の特定等はほとんど問題にならず,わいせつとされる場面の有無の確定が主として問題となる点で,証拠調の重点が現場ビデオ等の場合と必ずしも同じではないから,例えば本件で証拠として採用された419巻のビデオテープを公判廷で展示するだけでなく,すべてを個別に再生して取り調べなければならないとまで考えるのは,一般的には適当とは思われない。むしろ,すべてを個別に再生するよりは,これに代えて,例えばこれらをすべて展示し,その中でとくにわいせつ性に限界的問題があると主張するビデオテープを当事者に選別・指摘させた上で,そのようなものを重点的に再生することによって全体の内容の理解をはかる方がより実際的な場合もあるし,また当事者からそのような個別的主張がされないときは,ビデオテープの一部を適宜,抽出・再生して取り調べるとともに,その余については,一部につき再生した結果とその他の録画内容をさきに見分した者の証言あるいは見分報告書等とを合わせることによって理解し,更にこれにビデオテープの押収ないし任意提出の経過や状況(この種のビデオテープだけひとまとめにして保管されていたことなど),ケースに表示された標題等をも総合して,そのわいせつ性を全体的に推知する方法を取ることも許されると考えられる。以上のように考えれば,原審裁判所が,証拠物であるビデオテープを公判廷で取り調べるにあたり,弁護人から公判廷での再生を必要とする理由が具体的に主張がされていない状況のもとで,その一部だけを公判廷で再生し,すべてを逐一再生する措置をとらなかったからといって,それを直ちに違法,不当としなければならないとは考えられない。従って,原審裁判所のとった前記の措置は,被告人から裁判を受ける権利を奪い,あるいは適正手続に反するものと言うことはできない(ただ,被告人は,原審第1回公判期日において,本件ビデオテープのわいせつ性を争っているところ,原審裁判所は,第2回公判期日において,各ビデオテープを証拠物として取調べたが,証拠調を終わり提出されたテープのうち再生の方法で取調べたテープのみを領置し,その余の大半のテープについては,これを領置せず,検察官に返還しているが,さきに述べたような本件の審理経過にかんがみると,この措置は必ずしも適当ではない。)。

第2 所論は,要するに,原審裁判所は,本件ビデオテープの内容を捜査段階で警察官が見分し作成した「内容見分報告書」について,これを刑訴法321条3項に該当する書面として採用し取り調べたが,前記の書面はその内容からみて実況見分調書と同視できるものではないから,前記は証拠能力に関する判断を誤ったものであり,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反にあたる,というのである。

そこで原審記録を検討すると,これらの書面は,本件捜査にあたった警察官らが,捜査の過程において,数人一組になって本件ビデオテープの内容を逐一見分し,それらのテープの内容にわいせつ性判別上問題となるどのような場面が含まれているかをチェックし,分類して記載した形式のものである。そのチェックにあたっては,捜査官がビデオテープのわいせつ性を独自に判定して記載しようとするというものではなく,主として後日法廷でその点が判定がされる場合に備えてその録画内容を分類・記載し,一読してその内容を理解できるようにしておく目的で,従来この種の事犯においてわいせつ性の判別上問題となることの多かったいくつかの事項を前もって抽出し,それに当たる場面が各ビデオテープにどの程度含まれているかを確認し,その結果を記載したというものであるから,前記書面のそのような記載内容に照らして考えると,これを刑訴法321条3項に該当するとした原判決の判断は相当であって,これに所論指摘のような訴訟手続の法令違反があるとは認められない。

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